❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
甘さの種類を明確にはかる事など出来かねるが、それでも柔らかい水菓子を奥歯で噛むと、甘ったるい果汁が溢れてくる感覚は捉えられた。忠告した通り、味などいつもながらよく分からない。それでも甘くて冷たい事だけはよく分かり、光秀がそれを嚥下(えんげ)して口角を持ち上げた。
「甘さの違いはやはり分からないが、味の違いは分かったぞ」
「え、嘘!?黄桃の方が美味しかったですか?」
予想だにしなかった光秀の返答へ目を瞠り、凪が軽く身を乗り出す。大きな猫目が期待に輝く様を前にして、男が金色のそれを意味深に眇めた。そうして、まるで秘め事を囁くかの如く声を低めると、彼女の鼓膜に音を零す。
「お前と食べた桃の方が余程甘くて美味だったな」
「!!!?」
ほんのりと意地の悪い声色で告げられたそれに、凪の目元や耳朶が一気に熱を帯びる。照り付ける太陽の所為でもないそれへ、満足げに笑みを深めた光秀が、くすりと喉奥で鈴を転がしたような笑いを零した。一方、顔をまさに茹で蛸状態にした凪は、桃を食べる度に持ち出されるその話題へ唇をきゅっと引き結ぶ。気恥ずかしさは当然あるというのに、味に頓着しない光秀が、その変化を感じてくれる理由のひとつとして、自分と食べた桃の味を引き合いに出してくれる事が無性に嬉しく思えてしまう。
(そういうとこが本当ずるい…!)
恥ずかしさなどかなぐり捨てて、光秀が少しでも食を楽しんでくれる、その理由になるのならば、何だっていいと思ってしまうのだから質が悪い。恥ずかしさを誤魔化すよう、凪が再びスプーンでかき氷と蜜、今度は白桃の果肉をすくって差し出した。余裕な素振りを見せる目の前の男には、どうあっても敵う気などしない。
「じゃあ、今度は白桃で確かめてみてください。もしかしたら、違う感想が出て来るかも?」
「ほう……?随分と挑戦的な事だ。だが、あの味を越えるものはそうそう無いと思うがな。それは、お前が一番よく分かっているだろう」