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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後



「自分で食べるなどと、つれない事を言ってくれるなよ」
「う、先手を取られた気分です……」
「戦の基礎だ、覚えておくといい」

自分で食べる、と口にしようとしたところで光秀へ先に逃げ場を封じられ、凪が小さく呻いた。ついいつもの癖で光秀相手に食べさせてしまったが、皆が居る前というのは今更ながら少々恥ずかしい。些細な抵抗がてらに悔しげな様子で零すと、男が冗談めかした調子で告げた。やがて観念した凪が、彼の手からかき氷を食べる。途端、口内へ広がる甘く瑞々しい食感や冷たさ、そして蜜の甘さが広がり、熱を抱いたその中で一瞬で溶けた。蜜の名残はしつこくなく、後を引かないさっぱりとした甘さであり、桃の果肉ともよく合う。

「んーっ、冷たくて美味しい!かき氷も凄くふわふわですね」
「ああ、削り方や氷の質にもよるだろうが、見事なものだ」

嬉しそうに凪が顔を綻ばせると、その表情を前に光秀の口元も同じく自然と綻んだ。容赦なく照り付ける夏の陽射しは燦々と輝いていて、季節を顕著に感じさせるものだが、それ故に暑い。冷たい海から上がると、気温の差が余計に肌を火照らせる。内側からひんやりと冷やしてくれるかき氷はまさにちょうどいいといったところだ。雪解けの如くすっと消えて行くかき氷は確かに物珍しく、氷を削っていた絡繰りを見る限り、それなりの技術が要されるのだろうと判断した光秀が、感心を寄せて口にした。

「光秀さんも、桃食べてみてください。黄桃と白桃だと甘さの種類が微妙に違うんですよ」
「俺にとってはどちらも大差ない水菓子だがな」
「それでもいいんです。スプーン貸してください」

凪の好む水菓子は艶々と輝いていて、瑞々しさが一目見るだけで分かる。彼女の勧めに、いつもと変わらぬ言葉を並べるも、楽しげな様へ抗う術など持たず、光秀は素直に手にしていたスプーンを手渡した。彼がしてくれたように氷と蜜、黄桃の果肉をすくって凪が差し出すと、光秀がそれを食べる。口内の熱で呆気なく溶ける氷と、柔らかな黄桃の果肉が混ざり合った。

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