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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後



瞼を伏せていなければ、文字通り呼び水のようなそれに意識を持っていかれる。

「………はぁー……」
「え!?急にどうしたんですか、兼続さん!?」

顔を背けて瞼を伏せたまま、兼続は深々とした溜息を漏らした。突如として隣から聞こえて来た盛大なそれへぎょっとし、凪が兼続の顔を覗き込む。ぱちりと双眸を瞬かせ、背けられた端正な男の面立ちを見つめていると、瞼を持ち上げた兼続が藤の眼だけを横へちらりと流した。

「もうお前は大人しく食事を摂っていろ」
「わ、分かりました…?」
「凪」

原因不明の事態に首を捻っていると、不意に反対側から潤った低音が名を紡いで、それへつい条件反射で振り返る。すると、伸びて来た長くしなやかな指がシルバーのファスナートップをそっと掴み、最初に凪がしたように、スライダーを滑らせて彼女の黒いパーカーのジッパーを上げた。

「わっ…!?」
「出し過ぎは駄目と言っていたな」
「!?」

驚く凪を余所に、光秀が軽く身を寄せてくすりと笑う。鼓膜を揺らした低く掠れた声にどきりと鼓動が一際大きく跳ね、意味も分からず頷いた。少し遅れて、後から光秀が胸を隠すようにパーカーの前を軽く閉じたらしいと察し、そこから垣間見える独占欲に心臓がきゅっと甘く疼く。実は先の兼続とのやり取りを目にした故の行動なのだが、生憎と凪は気付いていなかった。気恥ずかしそうながらも、割と満更でも無さそうな彼女の様子に薄く微笑し、光秀が手にしていた器を差し出す。周りは既に食事を始めていて、海鮮塩焼きそばも、磯焼き各種も武将達の口に合ったらしい。その事実に安堵し、凪は手にしていたミルクティーの容器を傍らへ置くと、差し出された器を受け取った。

「ちょっとだけ溶けちゃいましたね」
「蜜をかけている分もあるからな。この淡いものを夏の陽射しの下へ晒せば、溶けるのも当然だろう」
「確かにそうかも。光秀さん、先に食べるの、こっちからでもいいですか?」
「ああ」

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