❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
ふ、と小さく吐息すら聞こえて来そうな表情へ、凪が驚きを露わにすると、見開かれた大きな眸を見つめて兼続が揶揄を投げる。むっと眉根を顰めた彼女の手から、一度ミルクティーの入れ物を取り、蓋を開けてやった。
「仔犬が勢い余って、器をひっくり返すかもしれないからな」
「そこまで落ち着きなくないです。でも、ありがとうございます」
何だかんだ嫌味な風に紡ぎながらも、凪に対して気遣いを見せてくれる兼続へ眉尻を下げ、肩を竦めて笑った後でガムシロップを開けると、透明な液体をミルクティーの中へ二つ入れる。ゴミをまとめているビニール袋の中へ空を入れて、蓋をしてくれた容器を相手から受け取り、ストローを指先で持って液体をかき混ぜた。からからと乾いた音が鳴り、プラスチックの透明な容器に、溶けて丸みを帯びた氷がぶつかる。程よくかき混ぜたところでストローを唇で咥え、冷たい液体をそっと吸い上げた。
「美味しい」
こくり、と凪の喉が微かに動き、ミルクティーが嚥下(えんげ)された様が兼続の視界へ映り込む。細い首筋は華奢で頼りなく、露わになっている鎖骨の線までが繊細に繋がっている様を映し、兼続は即座に己を律した。これ以上、自らの不埒な視線にこの清らかな存在を晒す訳にはいかないと、顔ごと意識を引き剥がそうとしたその時、容器の周りに幾つも付着した水滴がするりと下部へ流れ、幾分大きな水滴となって、凪の胸へぽたりと落ちた。
「っ………」
咄嗟に、音にならないままで息を呑み、頭の中で状況にまったくそぐわない漢詩を並べ立てる。意識を逸らそうとするも、頬へ集まった熱と、冷たい湖面の奥にある、焦がれるような揺らぎが霧散する事はない。ほんのり紫外線を浴びて赤みを帯びた白い双丘の表面、きゅっと水着によって寄せられた甘やかな谷間に向かって、つるりと雫が滑って行く。
(………勘弁してくれ、目の毒以上の何物でもない)
じわ、と雫は柔い胸の線へ滲んで行き、当然その行く末を見届ける前に、兼続が理性で顔を背けた。