❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
歴史好きな彼方は当然として、博識且つ書物関係に明るい光秀と三成もまた意味を察している状態だ。枕草子など、高校で習って以来なので、そんな細かいところまで覚えてはいない。せいぜい冒頭部分を軽く暗記している程度である。内心ぎょっとして目を瞬かせた凪が、外へ漏れないよう内側で吐息を零した。
(乱世にタイムスリップするって分かってたら、もっと真面目に歴史と古典の勉強したのになあ…)
人生何が起こるか分からない、という言葉もあながち馬鹿に出来ないと思い直したのはつい数カ月前、ちょうど乱世で生きると決めた頃である。凪の表情を視界に入れ、甘やかすように指先を軽く絡めた光秀が、視線を店前のかき氷器へ向けた。
「枕草子の一文に、【削った氷へ甘蜜をかけ、金属の椀へ入れた】とある。古く平安の頃から、削り氷は貴族の楽しみのひとつという事だったのだろう。無論乱世でも、そうそう口に出来るものではないがな」
「へえ、そうなんですね。でも氷ってどう保存するんですか?」
「冬の間、川や湖の表面が凍ったものを削り出し、山奥の洞窟を氷室として利用するのです。山奥は気温も低く、氷が発する冷気で室の温度が保たれ、夏まで保存が可能になるんですよ」
「凄い…!でも削るのも運ぶのも大変そうだね…高級品だっていう意味、よく分かるなあ」
「やばい、乱世エモいわ」
話の内容が理解出来ないでいる凪が分かるよう、噛み砕いた形で説明をしてくれた光秀が、器へ盛られていく雪のようなかき氷を見て双眼を眇める。庶民の口には決して入る事のない、貴重品。三成の説明で、手間や人々の苦労の末に氷を得ていたのだと知り、凪は感心を露わに目を瞬かせた。乱世に生きる二人から実際に講義を受ける事が出来、彼方が感慨深く呟きを零す。店員が削り終えた氷の上に色とりどりのシロップをかけ、その上に果物をトッピングしている様を光秀が見つめると、凪へ意識を戻した。