❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
どちらかと言えば含みのある笑みを浮かべている男へ、眉間をむっと寄せた凪が反論している様を見て、慣れた光景とは言えど彼方が半眼になる。
「明智さん、凪苛めるの、楽しい?」
「ああ、この上なく」
「お二人を見ていると、とても心が暖かくなります」
「三成くんは安土の良心だね、穢れがないわ」
胸前で軽く腕を組みながら問えば、光秀が長い睫毛を伏せてあっさり肯定した。話の意図に気付いていないのか、三成が柔らかく笑い、それを隣で見ていた彼方が毒気の抜かれた様子で苦笑する。そうして列が次第に進んで行くと、店前で調理している光景が視界へ映り込んだ。網の上に置かれたホタテやサザエなどの貝類や、鉄板で焼かれているイカの香ばしい香りが鼻腔をくすぐった。
(美味しそう!いい匂いー!)
嗅覚が他よりもいっそう優れている凪は、潮風に乗って漂って来る香りへ心を浮き立たせる。安土という土地柄、あまり新鮮な貝類は手に入る機会が少ない。信長に頼めば手配出来ない事もないだろうが、それでも入手は現代程容易ではない。久し振りの貝類に胸を躍らせつつ、何気なく視線を向けた先で、がしがしとけたたましい音を響かせながら、ふわふわした白い氷を降らせる、かき氷器の存在に気付いて目を瞬かせた。
(かき氷…!光秀さん、氷なんてきっと食べた事無いよね)
冷凍庫の無い乱世において、氷は砂糖に勝るとも劣らない貴重品だ。それも削り方を工夫して作られる、現代のふわふわと溶けるようなものなど、食べた事はないだろう。先日、戦国武将カフェ【群雄割拠】でパフェは食べたが、アイスクリームなどとは異なる食感を知って欲しくて、つい視線がかき氷器へ向けられる。
「あの氷が欲しいのか」
「え!?あ、夏と言えばかき氷かなって。甘い蜜をかけて食べるんですよ」
「ほう…?まるで枕草子だな」
「あー、確かに枕草子にあるね。そんな一文」
「彼方様もご存知だったのですね」
(この会話について行けないの、私だけ…!?)