❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
さして強い力ではないものの、人差し指と親指で凪の白い頬をふにふにと摘みながら怒る彼方に対し、それを甘んじて受けながら凪が謝罪を紡ぐ。やがて満足したらしい彼方が手を離し、改めてぐるりと光秀を始めとした武将達や佐助を見回し、明らかに怪訝な顔をして最後に凪を見て告げた。
「……取り敢えず、どういう事か事情は説明して貰うけど、まずは移動するよ」
────────────────…
凪の友人である彼方(かなた)が運んで来たらしい妙な箱────もとい、バスを前にして光秀はそれをまじまじと観察していた。夜がこんなにも明るい時点で妙な光景が広がっているものだと思ったが、それ以外にも目にするものの全てが新鮮で奇妙だ。凪が五百年後の人間だと知っていなければ自分とてここまで落ち着いてはいられまい。それ程までに、この程度の光景であっても光秀の中では五百年という、本来であれば自分と凪を隔てる途方もない年月の長さをむざむざと思い知る。
(この【ばす】という名の箱は一体何で出来ている。色は漆のようだが艶が異なるな)
黒塗りのバスを眺め、光秀が思考を巡らせている最中、佐助によって武将達のバスへの引率が始まった。特に秀吉と家康辺りは怪訝な面持ちを隠しもせずにバスを見ているが、三成に至っては少々興味深そうだ。頭の柔軟さが何とも垣間見える様子をちらりと視界の片隅へ映し、光秀は再び意識をバスのライト辺りへ向ける。
「光秀さん」
不意に凪の声が男を呼んだ。視線を向ければ、一度友人との会話を収めたらしい凪が光秀を見上げている。彼女へ向き直り、視線を合わせると凪が屈託なく微笑んだ。
「私達も乗りましょう」
「ああ」
乗る、と言うのは即ちあのバスの事だろう。佐助が駕籠(かご)のようなものだと説明していたのを耳にしていた事から、あれに乗って何処か身を潜める事が出来る場所へと運んでくれるらしい。彼女の友人が手配したものだろうから、凪自身に危険はない筈だと判断して相槌を打った。