❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
側面には【SAKISAKA GROUP】と書かれていて、それを目にした凪がやっぱり、と内心で零すと同時、開かれた扉から一人の女がカツカツとヒールの音を鳴らして下りて来る。
警戒心を露わにしていた武将達は、目の前に停まったバスを見つめた後、やがてそこから下りて来た女の姿が街灯の灯りに照らされた瞬間─────それぞれまったく異なる反応を示した。
「な…っ、」
一番最初に我に返ったらしい秀吉が小さく声を漏らす。光秀の背に庇われた状態であった凪は、久し振りに見る友人の姿を前にして嬉しそうに破顔した。
「彼方(かなた)…!」
凪の声に気付き、彼女の方へと振り向いた女─────凪の友人である咲坂彼方(さきさかかなた)は、視界にその姿を捉えるとカツカツとヒールを再び鳴らして近付いて来る。
「何だあの格好は…!?」
「秀吉さん、ここは何とかぐっと堪えてください」
「………肌出し過ぎ」
「変わった格好の女性ですね?」
佐助が咄嗟に宥めに入ったものの、秀吉が堪えきれずに発したのも無理はない。彼方はサイドラインの入った黒のショートパンツに、オフショルダーのトップス、ヒールの高いレースアップのサンダルを履いている。長い栗色の髪には緩やかなウェーブがかかっていて、化粧こそしていないものの、気の強そうな切れ長の瞳が真っ直ぐに凪を捉えていた。肌を晒す事がはしたないとされている乱世育ちの武将にとって、現代の夏スタイルはかなりの衝撃と言えよう。
「…随分と奇抜な格好の娘だ」
(光秀さんもちょっと驚いてる…!)
そういったものが常識として染み付いているのは光秀も同様であり、彼方の姿を目にした彼は真顔のままで金色の双眸を微かに瞬かせていた。凪が内心驚いていると、ひとまず光秀の存在を一旦は無視する事にしたらしい彼方が、光秀の前へ出て来た彼女の頬を真正面から思い切り指先で掴んでふにふにする。
「ちょっと凪、色々突っ込みたい事沢山あるんだけど、取り敢えず心配したんだから、ほっぺふにふにさせなさいよ」
「う、ごめんなひゃい…」