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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後



足を踏み出すと、白い波が足元を濡らす。ひんやりと冷たい感覚と潮の香りが鼻腔をくすぐった。寄せては返す波は穏やかで、海も凪を保っている。まさに絶好の海水浴日和と言える中、凪に促されて光秀も足を踏み入れた。ざざ、と微かに鼓膜を波の音が揺らす中、冷たい!と嬉しそうな彼女の声が届けられる。小さな飛沫を上げて海の中へ入って行く凪の手をきゅっと握り、光秀が囁く。

「凪、はしゃぐのはいいが、足を取られて転ぶなよ」
「光秀さんと手繋いでるから大丈夫です。でももし私が転んだら、光秀さんも道連れですね」

あちこちで、楽しそうな喧騒が夏の晴天に響いていた。その中で一際鮮明な彼女の声が、何処と無く悪戯っぽく紡がれる。

───もし私が転んだら、その時は光秀さんも道連れですよ。

初めて安土城下を逢瀬した時に、凪が紡いだ言葉が脳裏を過ぎった。砂地はさらさらとしていて歩きやすい。どうやら足を取られるものは無さそうだと判断して、光秀が安堵と共にそっと口元を綻ばせる。鮫の浮き輪を海面に下ろすと、濃藍色のビニール製のそれがゆらゆら揺れた。

「わ、結構急に深くなるんですね…!」
「お前は小さいからな」
「もう、自分は背が大きいからって。あ、ジンベイザメ貸してください」

波打ち際から少し進むと、深度がぐっと増すようであり、一気に凪の胸下くらいまでの深さになる。身体をひんやり包む海水は心地よく、青々した海面が太陽の陽射しを反射してキラキラ輝いていた。凪に求められるまま、海面を揺らぐ鮫を渡してやると手が自然と離れる。浮き輪の平たい部分に両腕を乗せ、そこへ身を委ねるように彼女がすると、光秀が指先でとん、と浮き輪を軽く突ついた。

「やれやれ、お前を転ばないよう支える役目は、この珍妙な生き物に奪われたという訳か」
「じゃあ今度は、私が転ばないように光秀さんを支えますね」
「ほう…?頼もしい事だな」

冗談めかして告げられた言葉に、凪が黒々した眸を瞬かせて笑う。

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