❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
けれど結局のところ、抱き締めるこの両腕から逃れるだなんて出来る筈もない。
「光秀さんの意地悪は、こっちでもやっぱり健在ですね」
「なに、お前が苛めて欲しそうな顔をしていたものでな」
「そんな顔してないです」
「ほう……?」
じ、と微かな音を立ててスライダーを滑らせる。閉ざしていたパーカーの前が開かれていき、男のしなやかな体躯を露わにして行く様は、何となくいけない事をしている心地になった。ぽつりと照れ隠しに呟けば、光秀が長い睫毛を伏せて吐息混じりに笑う。そんな顔をしている自覚はないけれど、もしかしたら光秀にはそう見えているのかもしれない。自分の手で上げたジッパーをしっかりと下げ、噛み合せた箇所が外れたと同時、光秀の色素が薄い肌が完全に露わとなった。顔を上げ、手を離す。これで男の手から解放されると思った凪の耳に、含みのある相槌が届けられる。背に回されていた片手が離れ、彼女の顎を指先ですくった。
「ではこうも頬を染めているのは、別の理由があるという事か」
「ち、違……っ、もう、人前は止めてくださいっ」
「おやおや」
軽く身を屈めて凪の顔を覗き込み、光秀が意地悪く眸を眇める。吐息が凪の唇を掠め、ぞくりと肌が僅かに粟立った。身体がひたりと触れ合っている所為で、剥き出しの皮膚を通して熱がうつってしまいそうな感覚に陥り、凪が慌てて瞼を閉ざしながら首を振る。恥ずかしさ故に軽く身じろぎすれば、思いの外あっさりと男の腕から解放された。
「光秀さんの所為で、暑いのに余計熱くなっちゃったじゃないですか!」
「それはすまないな。だが、どうせこれから涼を得るんだ。問題はないだろう」
むっとして眉根を寄せるも、光秀はいつも通りさして気にした素振りもない。ジッパーを下ろす為に一度砂浜へ置いた鮫を持ち上げていると、目の前で男が真白なパーカーを脱いだ。均整の取れた上半身が露わになり、無駄の一切ない身体が目の前へさらけ出されると、周囲の視線がばっと集まったのを肌で感じる。