❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
「光秀さん、海に入るなら脱いだ方がいいと思うので、その…」
脱いでください、と言うのも言葉的に妙な気がして、凪が途中で言い淀んだ。皆まで言わずとも彼女の言葉の意図を察し、男がくすりと微かに笑みを零す。
「ああ、お前が言うならそうするとしよう」
頷いた光秀はしかし、言葉の割に上着を脱ごうとはしなかった。彼と向き合った体勢でいた凪は不思議そうに目を瞬かせ、首を緩く傾げる。
「あの…?」
「お前が見せるなと言ったんだ。ならば脱がせるのも当然お前がしてくれるんだろう?」
「何故!?」
疑問を投げかけると、光秀もまた彼女へ合わせるように首を傾げた。しれっと当然かのように紡がれたそれへ、思わず咄嗟に突っ込んでしまった凪だが、男はくすりと小さな笑いを零すばかりだ。ジッパーを上げた時は然程気にならなかったが、それを下ろすと言うのは何となく抵抗がある。嫌と言うよりは、どちらかと言えば恥ずかしい。凪は思わずさっと周囲を見回した。
既に面々は波打ち際の方へと歩き出していた為、知り合いの目はない。意を決し、抱えていた鮫を一度砂浜の上へ置いた後、凪がおずおず手を伸ばす。彼女の指先がジッパーに付いていたファスナートップを掴んだと同時、背へ両腕を回した光秀が無防備であった身体を軽く抱き寄せる。とん、と身体が軽く触れ合い、咄嗟に顔を上げた。刹那、耳元へしっとりと潤った低い声が注がれ、ぞわぞわとした感覚が背筋を這う。
「どうした、随分緊張しているようだが」
「べ、別にそんな事は……」
「たかが着物を脱がせるだけだろう」
(もう、人の気も知らないで…!)
鼓膜へ直接注がれるようなそれは、凪の鼓動を逸らせるには十分過ぎる。慌てて首を左右に振るも、露わになった彼女の背筋を、男の指先がゆっくりと上へ滑った。絶妙な距離感で触れるか触れないかのラインを保ち、肌をなぞられてしまえば、凪は目元を朱に染めながら唇をむっと噛み締める。相も変わらず自分は光秀に翻弄されっぱなしだ。