❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
「え……」
「私、彼方みたいなモデル体型じゃないし、もっと肌とか隠れるの選べば良かったかな…」
はっとした家康が改めて背けていた顔を正面へ向けると、凪がぽつぽつ呟く。どうやらコンプレックスを地味に刺激されたらしく、軽く顔を俯かせてしまった彼女を前に、家康があまり表情には出ないながらも焦燥した。家康とて女心がまるで分からない訳ではない。普段とは異なる格好をしていれば、気付いて欲しいし褒められたいと思うものだろう。正直この場に居る者達の格好自体は本当にどうかしてると思うが、それが普通という認識ならば仕方ない。家康が片手を伸ばし、凪の頭へ触れる。ふわっと普段の薫物とは違う、甘く優しいシャンプーの香りが鼻腔をくすぐった。
「わざわざ人と比べる必要なんてない。凪は凪だし、それに」
指通りの良い前髪を軽く梳き、家康が努めて平坦な声色で告げる。そうしなければ、胸の内側でけたたましく鳴り響く心の臓に煽られて、緊張と照れ臭さで、声色に熱がこもってしまいそうだったから。
「肌を出してる姿は見慣れないけど、似合ってる。………可愛い」
「!!」
ぼそりと家康が音に出した瞬間、凪が驚いたように顔を上げた。見開かれた黒々した眸がじっと注がれ、視線を横へ背けた家康の目元にじわじわと朱が集まり始める。そんな彼の表情を暫し見つめた後、凪が心底嬉しそうに笑った。
「ありがと、家康っ」
「………別に。こんな事で喜び過ぎ」
華が咲いたような笑顔を前にして、家康の声が照れ隠しの所為か、いっそうの素っ気なさを帯びる。呆れを滲ませているかのような言葉を耳にし、すっかり復活したらしい彼女が浮き輪とエアーポンプを繋いで、スイッチを入れた。
「見て、こうすると膨らむんだよ」
「へえ……この絡繰りは確かに便利かもね」
空気の流れる音が響き、平たいビニールの浮き輪がみるみる内に膨らんで行く。凪が声をかけると、家康も関心した様子で眸を瞠った。あれだけ平らであったものが空気を送られ、形を成して行く様は不思議でしかない。