❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
彼女の声が聞こえたと同時、あからさまにびくりと肩を跳ねさせた家康が、僅かにちらりとだけ背後を振り返り、そして再び正面へ向き直る。レモンイエローのパーカーをきっちり着込んでいる彼の耳朶が可哀想な位に赤く染まっている様を目にして、凪が心配そうに眉尻を下げた。
「家康、もしかしなくても暑い…?」
「……あんたが恐ろしく鈍い事は知ってたけど、ここまでとはね」
「え?」
暑さが苦手だという事を知っている為、ビーチの暑さにすっかりやられてしまったのかと懸念した凪の問いへ、家康が心底呆れを含ませた調子で吐息を零す。暑さも去る事ながら、生憎と今の家康はまったく別の事にやられていた。ぱちりと双眼を瞬かせる凪を余所に、家康がカバンの中身を取り出すと、不思議そうに翡翠の眸を瞠る。
「何これ」
「浮き輪だよ、空気を入れて膨らませて海に浮かべるの」
「ふうん……っ、ちょっと、凪」
思わず零れた素直な疑問へ凪が答えつつ、家康の正面へ回った。屈み込んで自動エアーポンプを取り出し、家康が手にしている折り畳まれたビニール素材のそれを広げる。つい普通に相槌を打ってしまった家康だが、自らの正面に居る彼女の姿を視界に入れて、咄嗟に焦燥した声を漏らした。白い膝と露わになった大腿や脹脛が目前にあり、軽く屈んだ事によって柔らかそうな胸元が強調される。白い肌に映える黒の水着が艶めいてそこはかとない色気があり、胸のラインへ導かれるように視線が向かってしまう。
「どうしたの?」
「どうしたもこうしたも……よくそんな格好、あの人が許したね」
「……やっぱり、変?」
ぱっと顔を不自然に逸らしつつ、家康が素っ気ない声色で告げた。見た事も無い彼女の素肌が、こうも惜しげも無く目の前に晒されては気が気ではない。他の女の格好は耐性が付いたが、好きな子相手となれば話は別だ。あの光秀が凪のこんな無防備極まりない格好を、よく許したものだと口にすれば、彼女は不意に何処と無く消沈した様子で眉尻を下げた。