❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
腰に両腕を回される事で、まるで光秀自身の身体で隠されてしまったような錯覚に陥った彼女の耳朶が、じわじわと赤く染まった。ぎゅっと押し付ける形になった凪の胸元は、着物をまとっている時よりもいっそう強調されていて、本人に自覚はまったくないが、いっそあざとささえ感じられる。
「こうも肌を露出して、他の男の目に晒すとは悪い子だ」
「だって光秀さんと初めての海だし……せっかくなら可愛い水着、着たいし…」
視線を向ければ何処もかしこも無防備で、つい目が吸い寄せられてしまう。なだらかな肩や背、薄い腹にくびれた腰のライン、きゅっと引き締まった細い足首と、柔らかそうな大腿や脹脛、そして甘く誘う胸のライン。何処を取っても他へなど見せたくないものばかりで、正直この腕から離したくないくらいなのだが。
囁いた掠れ声に対し、おずおずと零した凪のいじらしい発言にはさすがの光秀とて完敗であった。それでなくとも浜辺を見れば、こちらの世ではこの位が当たり前なのだという事は、光秀とてよく分かる。
(他の男の目へ触れさせるのは癪だが、せっかくの機会だ。愛らしい連れ合いの姿を堪能させて貰うとしよう)
照り付ける夏の陽射しを受けてじんわりと火照る肌に吸い付く、凪の柔らかな肌の感触を名残惜しく思いながら、光秀が軽く彼女の耳元へ唇を寄せ、低く囁いた。
「お前にしては大胆が過ぎるが、よく似合っている」
「!」
途端、凪の目元が朱に染まる。見開かれた黒々した眸にはもう、不安や懸念の色など浮かんでいない。喜びに眸の奥が輝き、それを隠すよう気恥ずかしそうに顔を俯かせた。
「おや、どうした。首筋まで木苺のように赤く染まっているが」
「み、光秀さんの所為ですよ…!」
くすくすと小さく笑いを零し、腰へ回していた片手で露わになっている彼女の項をするっと撫でれば、凪が小さく伏せた睫毛を震わせて光秀を見上げる。物言いたげな眼差しを前に、口角を持ち上げた光秀の手がそっと離され、触れ合っていた肌が遠ざかった。
(というか光秀さん、水着なのに何かやらしい…)