❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第2章 武将と五百年後ノープランツアー 後
凪が嬉しそうに光秀の名を呼べば、彼方も関心した様子で笑った。突如として現れた謎のイケメン────否、光秀に腕を捻り上げられた男が半泣き状態で身を捩る。片手だけで男を黙らせた光秀は、適度なところで手を離し、凪の元まで近付いて彼女の腰を大きな掌で抱き寄せた。着物や衣服越しではなく、肌へ直に触れる男の掌に凪の鼓動がどきりと跳ねる。決していやらしい手つきという訳ではないのに、光秀に触れられるだけで、温度が上昇したような気すらした。
「なんだよ、本当に男持ちだったのか、くそっ」
「悪いがそういう事だ。この娘達の事は諦めて、他を当たるといい。幸い、ここには小娘達が多く居る。果たして相手にされるかは、お前達次第といったところだろうが」
(うわあ……)
捻り上げられた手首を押さえつつ悪態を付いた男が眉間を顰める。そんな男達へ涼やかな一瞥を送りながら、光秀が悠然と笑んだ。とんでもなくハイレベルな顔の男にそんな事を言われては、ナンパ男達にしてみれば立つ瀬無い。くそ、と憎々しげに再び悪態をつき、彼方の方へ意識を向けた。
「男持ちに興味はねえ。じゃあこっちの子だけでいいや。薄情な友達なんか放っといて、俺等と遊ぼ」
「どんだけポジティブなの、あんた等!?」
思わず素で突っ込んだ彼方へ、ポジティブナンパ男の一人が彼女の二の腕を掴んだ。あからさまに苛立ちを露わにした彼方が文句を言おうと振り返る。その瞬間、男のそれに別の手が重なり、難なく外すとそのまま彼方の身が庇われた。
「誠に失礼ながら、こちらの女性へ不用意に触れるのはご遠慮ください。大恩のある大切な方なのです。何かご用事でしたら、私が代わりにお伺いさせていただきます」
「み、三成くん……!?」
彼方を背に庇い、三成が男達の前へ立つ。寝癖の残った柔らかな髪を前に、この展開は予想していなかったらしい彼方が目を瞠った。光秀と三成、両者共に顔の良い男連れらしい二人を見て、さすがに分が悪いと感じた男達が退散して行く。