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❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国

第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前



乱世の暦とは若干異なり、五百年後の世はちょうど七月初旬。初夏を越えて夏に入ろうとしている京都の夜は少しずつ蒸し暑さを増して来る頃だ。乱世でクーラーのない夏を過ごしているとは言えど、暑いものは暑い。そんな中、暑さを感じている素振りのない、いつも通りの実に涼しい顔をした光秀に汗を拭って欲しいと言われたところで、拭うものすら滲んでいない事実を突きつけると、男は可笑しそうにくすくす笑って肩を竦める。そんなやり取りを半眼で眺めていた家康は、元々夏が苦手という事もあり、肌にまとわりつくような湿気を孕む熱に辟易した吐息を漏らす。

「……確かに暑いですね。心無しか安土よりも暑く感じる気がします」
「家康様、では僭越ながら私が汗を拭うお手伝いをさせて頂きます」
「心底要らない」

手拭いを取り出しかけた三成へぴしゃりと言い放ち、家康は自らの手拭いを取り出して自分で額へ滲んだ汗を拭った。中途半端な位置まで取り出しかけた手拭いをきょとんとした様子でしまい、三成が柔らかく笑う。

「人に無用な気遣いをさせない気遣い。さすがは家康様、素晴らしいです」
「お前と話すと本当疲れる」

いつもと変わらぬやり取りを繰り広げる家康と三成を見て、凪が思わずそっと苦笑した。佐助は心無しかそのやり取りを嬉しそうに見て、関ヶ原…と呟きを漏らしていたが、ひとまず何も聞かなかった事にする。夜半の本能寺跡の石碑付近は車通りも少なく、人通りも少ない。こんなところで有名武将達が立ち話をしながら待ちぼうけを食らっているなどという絵面はかなりシュールである為、目撃者が無駄に増えない事は不幸中の幸いと言えるだろう。不意に、通りの向こうから眩しく点灯している二つのライトが見え、凪はどきりと鼓動を跳ねさせた。一般人に写真を撮られて、変な集団としてSNSに上げられたらどうしよう、そんな懸念を抱く彼女を余所に光秀が凪の身体をそっと引き寄せて自らの背へ庇う。

「光秀さん?」
「妙な音が近付いて来る。五百年後の世とはいえ、危険がまったく無いとは言い切れないだろう」

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