❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
ただでさえ本能寺の変、信長生存説を再現してしまった手前、これ以上の歴史改変は避けたいと佐助が忠告した後、改まった様子で電卓へ視線を落とす。凪が別の意味で内心感心していると、佐助が真顔のまま、いつもと変わらない声のトーンで切り出した。
「それでは改めて発表します。じゃかじゃかじゃん」
「……なあ佐助、水を差すようで悪いが、最後のじゃかじゃか…ってのはなんだ?」
「場を盛り上げる為の効果音です、秀吉さん」
「真顔で盛り上げられても怖いだけなんだけど」
最後に付け加えられた珍妙な物言いに戸惑いを覚え、秀吉が何とも言えない表情で問いかける。佐助がやはりいつもの真顔で些かきりっとしながら答えると、家康が小さな嘆息を零して半眼になった。
「三公演分の合計投げ銭額は四十三万六百五十八円です」
「ええ!!?」
「ヤバい、武将の稼ぎ嘗めてたわ。そもそも、投げ銭ってそんな高額いくもんなの?」
「基準が分からなさ過ぎて驚きしかないね……」
佐助が合計金額を告げたところで、凪が驚愕に声を上げる。大きな猫目を更に大きく瞠り、思わずグラスを取り落しそうになった彼女が、そっとテーブルの上へそれを置く。凪の左隣に座っていた彼方も、そこまでの金額だとは思っていなかったのか、感心を通り越して放心した様子で自問自答した。路上パフォーマンスの経験などある筈もなく、基準値がまるで分からない為、何とも言えないが、普通に考えたらかなり稼いだ方なのではないだろうか。
「お前達の様子を見る限りでは、それなりには稼ぎを得たらしいといったところか」
「凄いですよ光秀さん…!ちょっといいお給金貰ってる位は稼いでます」
「それは何よりだな」
凪と彼方の興奮具合を見て取り、光秀が口元へ微かな笑みを刻んだ。相手の方へ振り向いた凪が、まるで自分の事のように嬉しそうに笑顔を浮かべる様へ、片手を伸ばした光秀がよしよしと彼女の頭を優しく撫でてやる。