❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
「お前はどうしたい」
「わ、私ですか?」
「お前以外に誰が居る。……有無を言わさず拐かすつもりでいたが、気が変わった。今この場は、お前の意思を優先してやる」
問われたそれへ驚き、兼続へ返すと若干呆れを滲ませた面持ちを浮かべられる。話を丸く収める為、凪の反応で展開に収拾をつけようと言う兼続の判断を察し、彼女はちらりと光秀を見た。
「裏切った意味何だったんだ」
「話がややこしくなるから、大根は黙ってなよ」
「はあ!?何だよこの猫っ毛」
この場にもう一人の役者として信長が居れば、ある意味もっと丸く収まったのかもしれないが、残念ながら彼は五百年前の安土だ。幸村がもはや演技など関係なしに突っ込むと、早くこの茶番を終わらせたい家康が溜息混じりに告げる。猫っ毛の暴言に若干むっと眉間を顰めた家康を余所に、凪は逡巡した。
もしかしたら、兼続がこのような対応を取らなかった場合、光秀は自らを裏切り者としたまま、幕引きをしようとしたのではないだろうか。嘗て自分も同じような思い違いをしていたように、五百年後の人々のほとんどが光秀を裏切り者だと認識している。そしてまた、光秀自身もそう思われる事に躊躇いがない。太平の世を作るという望みの為ならば、決して無用な取り繕いなどしないのだろう。
(私は、皆に知ってもらいたい)
本当はとても優しくて暖かい人だという事を。織田軍の裏切り者などではなく、むしろ織田軍の為にそれこそ身を粉にして働いている人なのだという事を。例え光秀自身が、周りに知られる事を良しとしなくとも。
「私は……」
凪が小さく声を漏らし、兼続を見上げる。視線が絡まった刹那、彼女の眸に浮かんでいる感情を読み取った男が、口元を微かに綻ばせた。やがて、凪が身を翻して光秀の元へ駆けて行く。羽織を手にしたまま、彼の傍に立った凪が光秀を見上げてはにかんだ。
「これからもずっと、光秀さんの傍に居ます」
「そうか。引くぞ、幸村」
「おー」