❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
「………ねえあれ、明智さん半分演技じゃなくて本心でしょ」
「まさかあの兼続さんがそこまで芝居に乗ってくれるとは。謙信様達にも見せてあげたかったな」
光秀が悠然と告げた。元々演技に違和感のない光秀だが、その台詞だけ妙に感情が込められている気がして、殺陣でそれまで大興奮だった彼方が真顔になった。乱世ではおそらく二度と見られないだろう、兼続の演技を見て、佐助は残して来た謙信と信玄を脳裏に思い描く。土産話のひとつはこれで決まりだな、と内心思いつつ、そろそろ幕引きが訪れる気配に、足元へ置いていた籠を二つ手にして彼方へ渡した。
「なるほど、了解」
得心したと言わんばかりに頷き、片手に籠を抱えると彼方はクライマックスという事で凪と光秀、兼続の三人をズームで映す。
「つ、つまりどういう事だ?兼続が凪を狙っていて、光秀は信長様をあろう事か裏切り凪を攫って…」
「秀吉様、まさにこの状況こそ光秀様が作り出した策なのではないでしょうか。敢えてご自分で裏切り者の振りをする事で、味方だと思わせていた敵の狙いを暴き出す……実に光秀様らしい策かと」
「本当にそうだとしたら、相変わらず大事な事を口で伝えない野郎だな、お前は!」
芝居の内容を整理する為、秀吉が難しい顔をすると織田軍の頭脳、三成が状況をまとめた。信長への裏切りは偽り、何となく実際に有り得そうな設定を理解すると、秀吉は深々と眉間の皺を深めて文句を言う。
「敵を騙すにはまず味方からと言うだろう、秀吉。さて兼続殿、悪いがその娘を返して貰うぞ。生憎とまだ正式に信長様から貰い受けていない身だ。次に本能寺で茶会が開かれる時に、二人揃って御許しを頂く算段なものでな。狂わされては少々困る」
「結局貰う気でいるんですね」
肩を竦めて秀吉へ軽く笑った後、光秀が淡々と兼続へ告げた。しれっと結局信長から凪を貰い受ける気で居る男へ、家康が静かに突っ込みを入れる。そんな外野のやり取りの中、兼続は一度刀を鞘へ収め、凪へ向き直った。真冬の湖面のような眸を注がれ、彼女は双眸を瞬かせる。