❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
きん、と響く音に視線が集まり、一度兼続と幸村、そして家康と三成が下がる。光秀が横に薙いだ刀を秀吉が防ぎ、ぐっと押しやった後で下段を狙った。ひらりと舞でも舞っているかの如く身を翻し、刀に込められた力を受け流した光秀が距離をあけて、刀を肩へと宛てる。
「やれやれ、お前の豪腕ぶりには舌を巻く。しかし、いつまでもお前達とやり合っている訳にもいかない。そろそろ終わりにするとしよう」
「終わりって、お前これどう収拾つける気だ」
「頭を回してこその猿芝居だ。お前が俺に斬られる素振りを取れるなら、簡単に幕引き出来るんだがな」
「分かっていても、それだけは出来ねえと俺の本能が拒絶してる」
一通りの殺陣を見せ、観客が充分に湧いている様を確認した光秀が兼続と視線を交わした。藤の眸をほんの僅かに眇めた彼を余所に、秀吉が刀を構えて小声で言う。二人で間合いを詰め、刀を受けては流し、弾いては優雅に避けてといったやり取りを見せながら、光秀がさらりと口にすると秀吉が眉間を顰めた。こそこそとしたやり取りを背後で見ていた凪が首を傾げれば、ふと兼続が彼女の傍へやって来て、その手をそっと掴む。
「えっ!?」
「くだらん猿芝居はここまでだ。織田家所縁の姫であるこの娘を手に入れたのなら、もはやこの場に用はない」
「な、なにっ!?」
「なんだ、俺達調略されたんじゃなかったのかよ」
「まさか兼続殿が凪様を狙っていたなんて…」
予想だにしなかった展開に凪が驚愕の声を上げる中、実に丁重な所作で凪を自らの背に庇った兼続は、いつもと変わらぬ淡々とした声色で告げる。まさかの伏兵に動揺する秀吉とは逆に、幸村が呆れた調子で突っ込んだ。実に沈痛な面持ちを受かべた三成が気遣わしげに凪を見る中、家康が何処までも半眼で状況を静観している。
「ほう……ここへ来て尻尾を出すとはな。安易に調略されたかと思ったが、よもやその娘が狙いだったとは。まるで凪へ興味のない素振りをしていながら、密かに拐(かどわ)かす機会を狙っていたとは恐れ入った」