❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
「はっ…!」
ざっと地を蹴ったのは光秀と秀吉だ。かん、と甲高い音がして白刃同士がぶつかり合う。しかし、鍔迫り合いになる前に光秀がさらりと受け流し、間合いの詰められた相手に向けて蹴りを放った。とはいえ本当のやり合いではない為、腹部を抉る前にしっかり寸止めされた蹴りを躱し、秀吉が再び間合いを測る。ある意味鍛錬の時よりも難しい力加減に少々苦心した秀吉が体勢を立て直すと、正面に悠然と立つ光秀を見た。
「実際にぶん殴れねえっていうのは、思った以上に不便だな」
「おやおや、信長様の右腕殿ともあろう男が何を言う。この程度の猿芝居、こなしてこその忠義だろう」
刀同士を当てる事は出来るが、コンプライアンス的な面を考慮して身体へ実際に当てる行為に関しては、事前に佐助によって止められている。新兵への訓練以上に気を遣うやり取りを前に、秀吉が小さく呟くと光秀が肩を竦めて揶揄した。
「そこに忠義って関係あるのか?」
「ちょっと、何余所見してるの大根二人目」
「はあ?誰が大根だ!」
槍を構えた状態で居た幸村がつい突っ込むと、前方から距離を詰めた家康が手にした刀を振るう。かん、と槍の柄部分と白刃が正面からぶつかり合い、微かな音を立てせめぎ合った。大根役者呼ばわりされた幸村が眉根を寄せると、聞き捨てならんとばかりに反論する。呆れを滲ませた翡翠を向け、家康はその視線をちらりと凪へ流した。
「何言ってるの。自覚ないのか知らないけど、あの子に勝るとも劣らない大根だろ」
「大体、武士と芝居は関係ねーだろうが」
刀と槍の柄を幾度か合わせ、地を滑る形で互いに距離を取る。リーチの長い十文字槍を軽々扱い、器用にくるくると回す姿は先程の大根的名乗りとはまったく異なっていて、観客が指笛を鳴らすなどの賑わいを見せ始めた。
「兼続殿、お相手宜しくお願い致します」
「こちらこそ、宜しく頼む」
隙のない上段の構えに対し、三成が中段の構えで相対する。地を蹴って振り下ろされた刃は三成の斜めに斬り上げる形の白刃によって防がれ、きん、と微かな音が響いた。