第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前

むしろいつも通りとも言える様へ、凪がつい抗議の声を上げるも、それすら芝居の一環に組み込んだ男が何処となく意地悪く笑う。半眼でその様を見ていた家康は、構えの姿勢を取りながら秀吉へ視線だけを流した。

「秀吉さん、相手は完全にあの子を手に入れて油断してます。さっさと片付けて凪を奪い返しましょう」
「では及ばずながら、私もお手伝い致します。必ずや凪様をお救い致しましょう」
「あ、ああ…そうだな。おい光秀、凪は信長様が見初められた女だ。それをあの御方の御許しもなく手を出すとは、不忠にも程がある」

家康の淡々とした言葉に三成も刀をすらりと抜いて構え、敵と対峙する。促された事へ少し遅れて反応を示した秀吉は、凪の腰から手を離して背に庇った光秀を見据え、ほとんど芝居ではなく本心を吐き出した。信長から凪を預けられた護衛という立場であるにも関わらず、彼女へ手を出すなど言語道断。せめて御許しを得てからにしろ、という言外の圧を感じ、光秀はさして堪えた様子もなくくすりと笑いを零した。

「どうやら一筋縄ではいかないらしい。だが、先程も言った通り、捕まる訳にはいかないのでな。押し通らせて貰うとしよう」

その言葉が合図であるかのように、兼続は流された金色の双眼を受けて鍔を弾く。真剣よりも重量のない偽りの刀を抜き放ち、上段へ構えた。それを目にし、ようやくここから殺陣に入ると理解したらしく、幸村が槍を構える。

「凪、少し離れて良い子で待っていろ」
「分かりました…あの、気をつけてくださいね」

殺陣が始まってしまえば自分は邪魔になる、そう考えて離れようとした間際、光秀が微かに笑って肩にかけていた羽織を脱ぎ、それを彼女へ預ける。男から羽織を受け取り、抱き締めるように持った凪が頷いて、邪魔にならない位置へと退けた。彼女がしっかりと離れた事を確認し、掌で刀の柄をするりとひと撫でした後、光秀が抜刀する。じり、と間合いを測った彼らはそれぞれ視線を交わし、どちらからともなく足を踏み出した。