❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
「あ、あの…光秀さん…!?」
「お前にもこの猿芝居に付き合って貰うとしよう。なに、悪いようにはしない」
光秀と共に歩いて行きながら、周りに聞こえぬよう控えた声で光秀の名を呼ぶと、男が実に愉しげにくすりと密かな笑いを零した。凪が大根だと分かっていて舞台へ半ば強制的に上げた男は、再び秀吉達と対峙し、彼女の腰をそっと抱き寄せる。
「な…っ、女を人質にするとは卑怯な」
「その子、大根だけどいいんですか。手が余るようなら俺が貰い受けますけど」
「家康まで何言ってるの!?」
凪を突如引き合いに出して来た光秀相手に、秀吉が顔を顰めた。これから恐らく殺陣になるだろう時に、彼女を連れてきたという事は、余程自信があるのか。家康も光秀のそれを挑発のように受け取ったらしく、ひくりと眉根を微かに寄せて平淡な声で告げた。しれっと口にされたそれに凪が驚いていると、光秀が彼女の腰を更に引き寄せ、身を寄せる体勢にしながら悠然と笑った。
「この凪こそ俺が信長様から奪うと決めた、ただ一人の娘だ。本能寺襲撃の真の目的は、あの御方の茶会へ同席していた凪を奪い去り、共に生きる為」
「俺達そんな事の為に調略されたのかよ」
幸村の素の突っ込みが冴え渡る。うっかり猿芝居に巻き込まれた凪は、果たしてどうするべきかと焦燥した。生憎と光秀達のようにすらすら気の利いた台詞など出て来はしない。困り顔で光秀を見上げると、彼は口角を緩く持ち上げて、瞼を伏せながら凪の額へ唇を寄せた。きゃあ、と黄色い声が観客から湧き上がり、彼女の耳朶が可哀想な程真っ赤に染まる。
「安心しろ、お前を他の男に渡しはしない」
「ひ、人前では止めてください…っ」
「ほう…ならば早々に追手を撒き、二人きりでゆっくりお前を可愛がる事としよう」
(演技じゃないですから…っ!!)
もはや光秀の凪に対する態度は、演技なのかそうでないのか判断が付かない程だ。