❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
新たな陣営の登場に観客が色めき立つ中、凪はそっと苦笑して幸村を見た。
「幸村、何か緊張してない?」
「ああ、幸村は根が不器用で真っ直ぐだから、演技となるとちょっと」
「まあそういう人が居てもいいでしょ。大体、明智さんが違和感なさ過ぎなだけだから。何あの演技慣れ、自然体過ぎ」
「光秀さんにとってはよくある事だから…」
凪が首を傾げて問いかけると、佐助が友人の姿を見て眼鏡のブリッジを軽く押さえる。良くも悪くも真っ直ぐな幸村は、そもそも演技に向かない。兼続はいつも通りである所為か、そこまで違和感を覚えないが、幸村のそれは凪と同じ匂いがする系統─────つまり、大根気味なのである。二人のやり取りを耳にしつつ、彼方が相変わらずスマホを構えながら突っ込んだ。光秀の演技慣れは凪が一番良く知っている為、更に苦笑を深めると、幸村が槍を構えて前へ出る。
「い、一騎、と、当千…さな、真田、幸村!」
「直江兼続だ。お前達にはまったく恨みなどないが、筋書き通り刀を交えさせて貰う」
(兼続さんは落ち着いてるけど、ゆ、幸村頑張って…!)
槍の扱いは上手いのに演技が少し拙い人扱いになりそうな幸村に、自分と同じ大根属性を感じ取り、凪が心の中で必死にエールを送った。そんな訳で、舞台上の役者がすべて出揃ったところを見計らい、光秀がふとこちらへ金色の視線を流して来る。きゃあといっそう色めいた声が響く中、光秀が何故かこちらに向かって歩いて来ている姿が視界に入った。
「ねえ、何か明智さんこっち来てない?」
「う、うん……」
(なんだろう、凄く嫌な予感がする……)
光秀の袖を通していない羽織の裾がふわりと揺れる。彼方が小さく声をかけると、凪も若干顔を引き攣らせて頷いた。心の中で零したと同時、ちょうど凪の前で足を止めた光秀が、彼女の手を優しく取ると元の位置へと戻って行く。