❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
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「ま、待ちやがれ!」
ふと公園内に秀吉の何処となく恥ずかしさが抜けきらない声が響き渡った。通行人達は何事かと立ち止まり、男達から少し離れたところに居る凪と彼方、そして佐助の元までぞろぞろと近付いて来た。前方には三人ずつ対峙する浴衣姿のイケメン達。一体何が始まるのかと期待に胸を躍らせているのは、主に歴史好きの女性陣達だ。
(わ、凄い…!一気に人が集まって来た…!)
最前列の真正面、見学するのに一番の特等席を与えられた凪達三人の周りを、観客たちが囲み始める。あの人格好いい、だとか、あの人美人じゃない!?だとか、あの人ちょっと可愛い!だとか、ともかくそんな声が密やかに聞こえ始めた頃、人の集まり具合を金色の視線で流し見た光秀が羽織の裾を翻し、距離をあけた場所に立つ秀吉へ向き直った。
「おやおや、こんなところまで追いかけて来るとは、信長様の右腕殿は随分と暇を持て余しているらしい」
「光秀、今日こそはお前をとっちめて、腹の底晒させてやる」
(え、どんな設定!?)
もはやこれは安土の日常では、と思っていた凪の隣で、彼方が懸命にスマホを構えながら動画を撮っている。一方佐助は、必要以上に観客達が前へ出ないようにする為の誘導係りだ。なにせこれは台本や打ち合わせ無しの即興劇。筋書きと方向性を決めるにはこの最初のやり取りが重要なのである。
「俺を幾ら追いかけ回そうと無駄というものだ。信長様を裏切ったのは己の利の為。お前に説明したところで理解されるものでもないだろう」
「の、信長様を裏切った!?……あ、ああ、そうだったな。理解出来なくても、その口から聞くまでは絶対に逃さねえ」
「……え、なにこれ。山崎の戦いか何か?」
「山崎の戦いって何…?」
「凪さんには辛い話だけど、豊臣秀吉が本能寺の変の後、裏切り者の明智光秀を討った戦いの事だ」
「なんでそんなコアな設定にしたの光秀さん…!?」
光秀がまるで違和感のない演技で飄々と告げると、秀吉が突如ぶっ込まれた設定に声を上擦らせ、気を取り直した様子で必死に演技へついて行く。