❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
「凪様、ありがとうございます。頼れる皆様と共に、無事殺陣を成功させてみせますね」
「ああ、ありがとうな凪。お前は危ないからちゃんと離れたところで見てるんだぞ」
「こんなところで怪我なんてしたら、武将の名折れだからね」
三人が嬉しそうに凪へ言葉を返すと、隣に居た彼女の腰をするりと抱き寄せた光秀が、凪の黒髪へ軽く唇を寄せる。人通りもあり、武将達の前でもある事に凪が焦るも、男が意に介する事はない。
「一人寂しく敵国へ行く事になった俺に、慰めの言葉のひとつもないのか、凪」
「嫌ならこっち来んな」
「斬り結ぶ相手が余っては、見世物として成立しないだろう」
「お前は真面目かよ!」
(慰めの言葉って…!?)
実に冗談めかした調子で告げる光秀を前に凪が焦ると、傍で聞いていた幸村が片手で追い払うようにそれを振る。明らかに組むのが嫌そうな幸村を冷静な藤の眸で見た兼続は、淡々とした様で実に正論でしかない言葉を投げかけた。咄嗟に突っ込んだ幸村を余所に、凪は光秀を見上げて軽く耳打ちする。
「頑張ってくださいね、こっそり応援してます」
「ああ、そもそも猿芝居は得意分野のひとつだからな」
背伸びをして片手をあてがい、こそりと告げたそれに光秀が笑って囁き返す。ふと、あ、と小さな声を零して模造刀などを買い付けた袋の中から、白に水色の模様が入った狐面を取り出し、それを光秀へ渡した。
「これ、光秀さんに。良かったら使ってください」
「ほう…?用意の良い事だ。有り難く使わせて貰うとしよう」
凪が差し出して来た狐面を受け取り、光秀がそれを軽く自らの顔へ翳して見せる。半分程顔を露わにするよう面をずらし、片側だけ覗いた金色の眸を微かに眇めた。その、あまりにも似合い過ぎる立ち姿へ、凪が鼓動を高鳴らせる中、そんなこんなで急遽行う事になった【戦国ストリート殺陣アクト】が、ついにその幕を開けたのだった。