❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
『はいはい、まどろっこしい。用件サクサク言いなさいよ。何でも助けてあげるから。どうしたの、山で何かあったの?』
(山じゃないんだけどね…)
歴史オタクな友人────咲坂彼方(さきさかかなた)の相変わらずの姉御肌っぷりには舌を巻くが、生憎とこもっていたのは山よりも更にスリリングな場所だった。趣味、薬草という変わった凪の消息が山ごもりの所為で絶たれていたのだと信じて疑わない彼方に前置きをしつつ用件を切り出すと、彼女は取り敢えず話を聞く姿勢を見せてくれたようである。変わらない性格の友人に安堵の息を零し、凪が早速本題を告げた。
「取り敢えず何も聞かないで、匿ってくれないかな。私の連れ…えーと…五人居るんだけど」
『…………は?』
一方、武将達は心底不思議そうな様子で凪を眺めていた。文明の利器を知らない彼等にしてみれば、端末を片手にして話をしている凪は完全に不可思議な人間に見える。
「何故凪様はあの【すまほ】なるものを片手に、お一人でお話しているのでしょう」
「さあ、五百年も経ってるんだから、俺達の知らない事があっても当然なんじゃない」
「確か以前、あの【すまほ】を使えば、遠く離れている相手とも言葉を交わす事が出来ると凪が言っていたな」
「へえ…そいつは便利だな。つまり、信長様があれをお持ちであれば、すぐにご命令がお伺い出来るという事か。それから光秀、お前が一人でふらふら何処かに行っても、すぐに連絡が取れる」
「やれやれ、そんなものでいちいちあの代わり映えしない説教を聞くのは御免だな」
三成が心底不思議そうに首を捻った事に対し、家康が溜息を漏らして呟いた。夜でも明るさが存在するこの世界では、自分達の知識を越えるものが存在していたとしても、何ら不思議はない。凪に以前スマホ本来の用途をざっくりと説明されていた光秀が告げた事に対し、秀吉が心底感心した様子で相槌を打った。信長からの命令をあの端末で聞く姿を想像するとなかなかシュールである。次いで光秀へ視線を向け、眉間を顰めた秀吉を前に、男はそっと肩を竦めて食えない面持ちで笑った。