第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前

「そ、そうですか？………あ、ミルクチョコだ。美味しいっ」

何となく自分が悪い事を察した凪だったが、ひとまず首を傾げた後、自身もフォークへ引っ掛けた【愛】の下の方をぱき、と齧る。ほんのり優しく甘いミルクチョコレート味のそれへ面持ちを笑ませた凪を見ると、兼続はふと藤の眸を微かに綻ばせ、口元へほんのりとした笑みを浮かべた。乱世では中々摂取する事の出来ない糖分を思い切り堪能する凪の姿はとても無邪気で楽しそうだ。

ぱきっと儚い音がして割れた【愛】だが、こうして見るとしっかり【半分こ】されていて、ひとつのものを二人で共有しているとも捉えられる。そんな様を暫し見つめていた光秀は、フォークに引っ掛けていたチョコを食べ終えた凪の、テーブルに置かれている片手へ自らのそれを伸ばし、指先でするっと甲を撫でた。

「凪、割ったとは言え兼続殿から【愛】を受け取るとは悪い子だ。代わりに……このお前が大好きな桃をやるとしよう」
「代わりに、の意味が分からないんですが…！？」

要するに兼続との半分こが気に食わない男の、とんでも無くささやかな意地悪が突き付けられ、凪が慌ててフォークを下ろす。そっと金色の双眸が意味深にクリームに添えられた白桃へ流された。【お前が大好きな】とつける辺り、いじめられる予感しかしない凪は静かに戦慄し、ひんやりした男の手から逃れるべく、ゆっくりと自らの片手を引こうとする。けれども、凪の逃亡をみすみす見逃す筈もなく、動かした瞬間にきゅっと大きな掌で包まれ、掴まれた。

「うう…っ、」
「一人で食べるのは少々味気ないだろうが我慢しろ。ほら、お食べ」

器用にフォークで一切れの白桃を凪に向けて差し出す。ほとんど有無を言わせぬ様を前に、彼女は口元へ迫る瑞々しい桃へ目元を朱に染めた。先程あーんを皆の前でしたのだから今更だろう、と言われればそれまでだが、この桃のあーんは少し違う。