❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
兼続の言い分が分からなくもない、と曖昧に頷くと、彼は添えられていたフォークをやはり器用に違和感なく使いこなし、【愛】の一文字を象ったそれを凪へ差し出す。
「?」
「手はつけていない。残すくらいなら、お前にやる」
「ちょっと量多い感じですか?」
「ああ」
掌よりも幾分大きいサイズの【愛】の一文字のチョコを見て、凪が軽く首を傾げた。兼続が付け加えるようにして告げたそれへ双眸を瞬かせ、やがて彼女が確認をするよう問う。兼続が頷く様を見て、彼女が暫し考えたのち、名案閃いたりと自らもフォークを手にすると、相手が差し出している【愛】の下部の隙間へそれを軽く差し込み、ぽきっという音を立ててチョコを上下で真っ二つにした。
「………………」
「何故だろう、今愛が折れた音がした」
「………はあ…」
「兼続さん!?どうしてそんな深い溜息を!?」
虚しくも何故か殊の外大きな音が響いた、佐助曰く愛が折れた音を前に兼続は無言になる。次いで、瞼を伏せて深々としたとてつもなく深い溜息を漏らした彼を前に、凪が焦燥を滲ませた。
「おやおや、これはまた随分と残酷な音が聞こえて来たな。慰めが必要ならば秀吉を貸すが」
「何で俺なんだ。だがまあ…深い意味は無いだろうから、あまり気にするな」
「明智さん、顔が滅茶苦茶笑ってるよ。ていうか凪ってそういうとこ、かなり鈍いんだよね……心中お察し、兼続さん」
「な、何だかごめんなさい…!?」
実に愉しげな笑みを浮かべた男が肩を竦める。秀吉が突っ込みつつも兼続に気遣いの眼差しを向けた。半眼で光秀の様子を見た彼方が突っ込みを入れると、そのまま視線を凪へ向ける。長年友人をしていると、こういう現場は目にする機会も多々あるというものだ。何処となく労りを込めた眼差しを兼続に向ける彼方相手に、そして溜息をついた兼続を相手に、凪が焦って謝罪を紡ぐ。彼は静かな藤の眸を凪へ向け、短い一言を告げた後でフォークに引っ掛かっている【愛】の上の方を口へ運んだ。
「気にするな。先程の溜息に他意はない」