❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
半分程銃身が失われた火縄銃は、銃口こそ失われていたが、その先端が真っ直ぐに凪の心臓へ向けられているかのようだった。引き金を引くのは当然光秀であり、紡がれた言葉にいつだって心の奥を震わされる。光秀に関して本当の意味で慣れるだなんて、想像もつかない。自分はこんなにも光秀に毎日翻弄され、心が忙しいというのに。
「それってもしかしてさっき言った事…」
「慣れなど感じる間もない程、可愛いお前をたっぷりといじめなければな」
(どんな理屈ですか光秀さん…!)
とくとくと耳朶の裏側でけたたましい音が鳴り響いた。気恥ずかしさを露わに視線を軽く伏せると、金色の眸が彼女を射抜く。抗う事など敵う筈もない、その美しい眸に導かれるかの如く、凪は残りのチョコを唇で挟んだ。
「うう……恥ずかしいけど美味しい…」
「素直で何よりだ」
もぐもぐと残ったチョコを食べた凪が恥ずかしそうに目元を赤くして呟く。くすくすと愉しげに微かな笑いを零した光秀が機嫌よく告げた。既に点火済みである種子島の引き金を引き、その心を撃ち抜いたのはどちらなのか。口内に広がる甘い味と光秀に翻弄され、凪は唇をきゅっと引き結んだ。
(また光秀さんに翻弄されてる…もう、嫌じゃないのがそれこそ困るんだよなあ…)
どきどきと高鳴る胸を持て余す中、凪がふと何気なくちらりと視線を向けた先、兼続が【愛】のチョコを避けている事に気付いて目を瞬かせる。
「あれ、兼続さんチョコ食べないんですか?そこまで後を引く甘さじゃないから、まだ食べやすいかなって思ったんですけど…」
「ここまで一気に甘味を食す経験は皆無だからな」
「確かに、お団子とかをちょっと食べるのとは量が全然違いますもんね」
それでも残すのは行儀が悪いと思っているのだろう、幸い甘酸っぱいベリー系のそれは砂糖類を使っておらず、果実そのものの味で作られている事もあって、くどい甘さではない。とはいえ、これは乱世では中々あるまじき糖分摂取量であった。