第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前

しかし、光秀に食べさせて貰った事で、より甘さが増した気がした凪は、胸の奥底に感じるチョコレートよりも甘く疼くような感情を持て余し、恥ずかしさを紛らわせるようにして告げた。そうすると、一度スプーンを引いた光秀が、それを片手に余裕な様で再び頬杖をつく。教えた訳でもないのに器用にスプーンを持つ指先はすらりと長く、軽く首を傾げるようにしている様が何とも憎らしい。

「どうすれば俺が素直に食べるか、お前ならよく分かっているだろう」

（それってつまり、あーんのお返しって事、だよね…）

もはや絵にしかならない男が、ことも無げにさらりと告げた。あーんされるのも、あーんするのも結局のところ恥ずかしい。だが、まだ比較的あーんする方が難易度が低い気がして、凪はせっかくの機会だからとスプーンを手にした。

「うわ、始まったよバカップル」
「バカップルって言わないでっ」

敦盛チョコを完食した彼方が、チョコがかかった金平糖とソフトクリームをすくって食べながら茶化す。既に耐性がついている為、単に茶化しているだけなのだが、凪はむっと困ったように眉根を寄せると、同じく水色桔梗のチョコとバニラとソーダが混ざったアイスをすくった。

「どうぞ」

軽く身を乗り出すようにしてスプーンを差し出すと、光秀が頬杖をついたままで片手を伸ばす。するりと片手を凪の手首辺りへ下から添え、すくい上げる形で自らの唇へ導いた。摂津で初めて光秀へ甘味を食べさせた際と同じ体勢に頬がじわりと熱くなる。瞼を伏せ、薄く開いた唇でそれを導き入れた。ひんやりと冷たいそれは口の中ですぐに溶け、残った水色桔梗も少しずつ口内の熱によって消えて行く。その不可思議な食感は光秀に少なからず印象を与えた。ほんのりと残る甘さはこれまで食して来た甘味とは異なる。それが認知出来る程度には、チョコレートとアイスの甘さは際立っていた。

「冷たくて甘いな。口の中ですぐに蕩ける」
「シャーベットは氷のお菓子なんです。だから暑かったり、時間が経つと溶けちゃうんですよ。この水色桔梗のチョコも同じで、熱で溶けちゃいます」