❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
何処となく意味深な男の言葉に気付かず、つい返事をしてしまった彼女は一拍あけた後で首を捻る。ぱちりと大きな眸を瞬かせる凪を余所に、二人分予め用意してくれていた内、一本のパフェスプーンを手にし、光秀が二人の中央辺りへと移動させたパフェから水色桔梗のチョコをすくい上げた。そっと伸ばされた腕と共に、目の前へ小さなチョコが差し出される。それを見た凪が意図を察し、気恥ずかしそうに周囲を視線だけで見回した。
「あの、光秀さん…っ」
「どうした、遠慮せずお食べ」
「お食べじゃなくて、自分で食べられるので、光秀さんもその桔梗は自分で…」
焦燥と羞恥で名を呼び、凪が困窮した様子で眉尻を下げる。くすりと微かな笑いを零し、男が何食わぬ表情で首を傾げながら短く告げた。こんな公衆の面前でひとつのパフェをあーんは恥ずかしい。彼方にもまたバカップルと言われるだろう事が容易に想像出来、彼女が首を軽く振った。しかし、光秀はいつもの事だがまったく意に介した様子はない。スプーンの先に薄い水色が混ざったバニラアイスと小さな水色桔梗が乗っている。それを軽くつん、とふっくらした唇へ触れさせると、金属とアイスの冷たさが伝わり、凪が逡巡した。
「この水色桔梗は、まずお前の可愛い唇に食べられたがっているようだ」
「う……、」
ふと金色の眸が甘く眇められる。しっとりとした低音が鼓膜を揺らし、凪の鼓動がとくとくと速まった。そんな事を言われて嫌だと言える者が居たら会ってみたい。こうなると光秀が引いてくれる事などないだろう。凪は気恥ずかしそうにしながらも、きゅっと目を瞑って唇を薄く開き、目の前に差し出されたそれをぱくりと食べた。
「……甘くて美味しい。光秀さんもちゃんと食べてくださいね」
口内に広がったのは、何とも久々に口にしたチョコレートの味わいだ。後味がすっきりとしていてくどくなく、甘味が苦手な人でも食べられるような味わいがバニラアイスと混ざる事で程良くなる。