❁✿✾ 落 花 流 水 小 噺 ✾✿❁︎/イケメン戦国
第1章 武将と五百年後ノープランツアー 前
「凪」
「ありがとうございます、光秀さん」
秀吉の小言を黙殺し、光秀が席に腰を落ち着けた後、凪の方へアイスティーのグラスを置いた。笑顔で礼を告げてから佐助と同様、ミルクとガムシロップを貰い、凪がそれを開けてグラスの中に入れて行く。ミルクを入れた後、一部がまるで溶け込むように色がほんのりと亜麻色に変わって行く様を見て、兼続が隣で微かに興味を示した。ガムシロップも加えた後、ストローでグラスの中身を、微かな氷の音を立てながら掻き混ぜる。
「光秀さんは佐助くんと同じアイスコーヒーなんですけど…飲めそうですか?」
「腹に入れてしまえば皆同じだからな」
「ならお前がこれを飲め」
「やれやれ、人が親切に用意してやったものを」
「お前の場合は親切じゃねえ。純然たる悪意だ」
凪が光秀に用意したものはアイスコーヒーであり、それをトレーから下ろした男へ、秀吉が凄まじい色のグラスを隣へと押しやった。味に特別こだわりのない光秀としてはさして問題ない為、特に文句を言うでもなくそれを己の方へと引き寄せる。代わりに凪がトレーに乗っていた最後のひとつを秀吉の前へ置き、苦笑する。
「秀吉さん、どうぞ。こっちは純粋な緑茶なので安心してください」
「ああ、ありがとうな凪」
「凪が秀吉に甲斐甲斐しく用意している様は些か癪だな」
凪が秀吉に緑茶のグラスを差し出した様を視界に映し、冗談とも本気ともつかない調子で光秀が告げた。すっと自らの方へ押しやられた全部混ぜのグラスを、再び秀吉側へさり気なくずらす。
「我儘言ってんじゃねえ」
「なんて言うか…仲良いね、明智さんと秀吉さん」
「うん、いつもなの」
光秀と秀吉のやり取りを、ストローを咥えながら見ていた彼方がぽつりと呟く。大衆に知られている史実では何かと因縁の仲であるだけに、ああしてじゃれている姿を見ると色々思うところがあるというものだ。凪は彼方の言葉に頷きつつ、くすくす小さな笑いを零し、ストローに口をつける。口内に広がるほんのりした甘さと、普段と変わらぬやり取りを見て、そっと口元を柔らかく綻ばせたのだった。