第9章 幻光河
「こいつがシパーフだ」
「うわ~、乗りたい!これ乗りたいぞ!」
ワッカが得意気に指差した先に、人の2倍以上の高さはあろうかという大きな生き物。初めて見るティーダは大興奮だ。
「シパーフなんて久しぶりね」
「あ、乗ったことあるんだ」
ティーダからの問いに頷きで返す。
私とユウナとキマリで一緒に乗ったことがある。
ブラスカのナギ節が始まってすぐの頃、ベベルからビサイドに向かう時だ。
「10年前にね、3人で乗ったのよね」
「シパーフが揺れてユウナが河に落ちた。シパーフは長い鼻でユウナを助けた。ユウナは喜んで3回わざと河に飛び込んだ」
私とキマリがそのときの詳細を話すと、ユウナは当時を思い出したのか少し気まずそうだ。
「キマリは心配した」
「いたずらっ子だったわね~、でもすごく楽しそうだった」
「ああ、だからいい」
「……ごめんなさい」
あの時はまだ出会って少しだったから、ユウナは私とキマリに多少なりとも緊張してた。
そんな時シパーフと触れ合うことで緊張がほぐれ、楽しそうに笑ってくれたユウナのことよく覚えてる。
この子の笑顔をアーロンの代わりに守らなければ
そう胸に強く誓ったのもその時だ。
「あ、あのシパーフ怪我してるわ」
「あれはジェクトが付けた傷だな」
「ええっ!?」
側にいたアーロンが教えてくれる。
「オヤジが!?」
ティーダもびっくりだ。
「酔っていた。魔物だと思ったらしい」
「はぁ~、しょーがねぇなぁ……」
「俺達の有り金を全部出して詫びを入れた。そしてジェクトはそれ以来酒をやめた。あの時のシパーフは今も現役のようだな」
だから最初に会ったとき金欠だったのかと納得する。
それでお酒辞めるなんてそこもジェクトらしい。
懐かしい話に花を咲かせていたが、シパーフの準備が出来たようでハイペロ族のシパーフ使いが声をかけてくれる。
「シパーフ乗る~?」
私たちは準備を整えてシパーフに乗り込んだ。