第5章 ミヘン街道
チョコボイーターを倒してくれた御礼にと、旅行公司の店主のリンさんがチョコボを無料で貸してくれることになった。
お言葉に甘えてチョコボを借りたところまではいいのだが…
「なんであんたとのなのよ…」
「不満か」
ユウナとティーダ、ルール―とワッカ、とここまできたらもうわかるだろう。
私はアーロンと絶賛チョコボに乗っている状態である。
「キマリは乗らないっていうし…」
「あいつは体格的に無理があるからな」
しかもチョコボに乗ったことが無い私は仕方なくアーロンの後ろに乗り、彼の腰に手をまわしている状況である。
これは非常にまずい。
嬉しく思う反面、恥ずかしい気持ちもあって一体どうしたらいいのか…。
今自分がどんな顔しているかなんて知りたくもないけど、容易に想像できるほど顔には熱が集まり始めていた。
そんな私にまったく気づく由もない鈍感アーロンは前を向いたまま話しかけてくる。
「もっとしっかりつかまれ。落ちても知らんぞ」
「…はーい」
力を入れていないのは意図してなのだが、この男がその理由に気づくはずもない。
しかし落とされるのは嫌なので気持ち少し回している手に力を込める。
するとさらに増すアーロンのぬくもりに今まで我慢していた気持ちが溢れてしまって、私はずっと聞きたかったことを口にしていた。
「…ねえアーロン」
「なんだ」
「アーロンはさ、その、ザナルカンドでいい人とか…いたの?」
「…」
そして私はすぐに言ったことを後悔した。
「いた」と言われたら傷つくのが分かっているのに…。
「あいにく、そういう縁に恵まれてなかったからな」
「ふ、ふーん…」
アーロンのその答えに、少し嬉しくなってしまう自分がいる。思わず腰に回している手に力が入り、彼の背中に顔をうずめる形になってしまった。
____またあなたに会えてよかった
感慨にふけていると、アーロンが先ほどよりも小さな声で話しかけてくる。
「…お前はいたのか」
「えーー?なんか言った?」
「…何でもない」
だけどその声は通り過ぎる風の音で聞こえなくて、聞き返してもアーロンはもう一度は言ってくれなかった。