第2章 滑落
暗くなる事に薄気味悪さがまして
どんよりと重い空気に茜に黒が差す。
先ほどの和尚さんのお話には、ここら辺でよく聞く鬼の話だった。
そして、鬼狩り様という存在が、和尚さんのお若い頃に喰われそうになるところを助けてくれたのだと。
何度目か聞くお話だった。
だけど、不思議と、驚きもしない。
『鬼なんているはずもない』そんな気持ちじゃない。
和尚さんがそんなに言うほどだから、本当のことだと思ってたのに。
そして、鬼がどんなに恐ろしい生き物かというお話も、いくらか聞いた。
和尚さんにとって、わたしは、唯一鬼の話を信じた人間だったらしく、行けば度々他所で聞いた鬼の話も教えてくれたこともある。
幼い頃のわたしが、人を助けたいと思って剣を握ろうとしたのもその話を聞いて何かを感じたからだった。
あれが、何だというんだろう。
鬼なんて知らない。
だけど、
今、
意味もなく怖い。
人気のない山道を転がるように走った。
心臓が煩い。
耳にまで鼓動が聞こえる。
ふと何かの気配が強くなる。
獣の唸るような声。
助けて欲しい。
だけど誰もいない。
息が切れるのも知らないはずなのに、焦りだけが本来の自分を奪って
人工物のない山道を喰われる鹿の如くただただ逃げた。
足元がずるりと滑って、ひゅっと息をのむのと同時に
体が縛られるような恐怖と共に宙に浮く。
底知れぬがけに堕ちたのだ
終わりだって思い強く目を閉じた。
そこから意識が途切れたようで
真っ暗の闇の中に男性の声と固くて暖かい感触。
「......」
誰かの声が聞こえる気がした。