第2章 滑落
住宅地から裏手に回って、山手の方にお寺がある。
道中すれ違う品の良いおば様たちに声をかけられては、愛想振りまいて
やっとのこのことで着いたのに、和尚さんは話好きでなかなか帰して貰えない。
何度目かの、「もう日暮れが近いので」と言って空を指してみせるとやっと納得して、
寺を出られたのはもう、日暮がカナカナと鳴く頃だった。
「すまないねぇ。千鶴ちゃん。下まで送っていこうか?」
「善祥さん、ダメですよ。帰る頃にはとっくに真っ暗になってしまいます。
通い慣れてますから、少々急げば暗くなる前に家に着きますので。」
「だが 、千鶴ちゃんは別嬪さんだからね....自分で引き止めておいてなんだが、輩に捕まってしまってはご両親に申し訳が立たん。」
「気にしないでください。わたしは走るのが得意なので.....。
それより魔除の香を炊くお時間ではないですか?
ここは山ですので、もののけに攫われてはわたしも悲しいです。」
「そ、そうかい...。」
心配する和尚さんをどうにか説得すると、自分が高齢で足腰が弱いこともあり、どうにか留まってくれることになった。
「面白いお話、有難うございました。」
「気をつけて帰りなさい。」