第6章 夢遊病
光を失くした華奢な体躯はだらりと崩れ落ちる。
やつれた男はただ、己の娘であるはずのその身を抱えて、新進と降り積もる雪で覆われた外へと放り出した。
唇は固く結ばれたまま、しばらく横たわる娘を見下ろしては、しばらくすると息をひとつ吐き、ぼそりと何かをつぶやくように口元が動く。
俯いたまま、呆然とする動かぬ娘を置き去りにして戸を閉めた。
そのまま、さくりさくりと雪を踏みしめる音が遠のき、もうひとつ戸が閉まる音が聞こえた。
再び、耳が冷たくなるほどの静けさと白い雪だけの世界。
千鶴はただ空を見上げた。
のそりと立ち上がると、我が家の門をたたくことも忘れて、ひとつひとつと歩み始める。
どこにいこうとか
そういうのは全く頭にない。
ただ、体が望むままに、ひとつひとつ歩き始める。
風が当たるたびにボロボロの心がきしんで胸元の合わせを握り締める。
辺りは暗いまま。
深く積もった雪に人通りも多い場所ですら、人がこの世からいなくなったかのように気配もない。
ただ、助けを乞う意識もないまま、ひたすらに、無意識の中を意思もなく歩き続けた。
どれくらいたっただろう。
気づけば人気のない山道に入り、廃屋が並ぶ見知らぬところまで来た。
真新しい血痕が椿が散ったように転々と続く。
「ここ辺りに鬼が出る」
そうあの鬼狩り様が言っていた。
「こ…くし……さ…」
薄れゆく意識の中、待ち焦がれた男の名を呼ぶ。
口元が動かない。
足も動かず、そのまま新雪の真白の上に倒れた。