第6章 夢遊病
二晩。
降り続いた雪は、足をとられるほど深く積もり、辺りはどこもかしこも白。
家にいる父には書斎の前に膳を置いて、時が経てば空になった膳を引き下げて洗うのみ。
沈黙のまま、離れた部屋でお互いがいないかのように声を潜めて生活する。
訪ねてくるものはもはやだれ一人としていない。
何もない閑散とした部屋で、強い風にカタカタと戸が震える音だけが空しく響く。
鏡に映る額には、あの人と同じ痣。
今日はやけに薄くなっているように思った。
寒い…
寒い…
そこにある羽織を羽織る。
どんな雪の日でも、寒さなんて感じてこなかったのにどうして。
外は、いつの間にかまた暗さを取り戻して、ただ、窓を打ち付ける風で外の様子を悟ることしかできなくなっている。
「あぁ…、食事…用意しなきゃ…」
よろよろと立ち上がり部屋を出ようと障子を開くとそこには父が威圧を伴わせてこちらを見下ろしている。
「出ていけ」
「父上…」
「出ていけ。今すぐだ」
「なぜ?なぜですか?」
「お前がいると…いると思うと邪魔で仕方がないからだ」
何を言っているのか理解が追い付かない。
全て、色を失い、何が起きたのかもわからない。
ただ、今までの全てがぜんぶひとりよがりで、わたしは間違っていたっていうのだろうか。
いや、全部、自分がやりたかっただけ。
それが父にとって心底いやだった
ただ
それだけなんだ。