第1章 空虚
毎夜、月のよく見える屋根に登っては笛を吹いた。
なぜかいつも同じ唄。
名前も何も知らない
突然吹けた唄だ。
どうしてか知らない。
ただ、その笛を吹いている時だけ、その曲を聴いている時だけ優しい気持ちになれた。
誰かが守ってくれているような気がした。
その誰かは決して両親ではない。
もっと別の知らない人。
でも、懐かしくて、包まれている気がして
ずっと吹いていたくなる。
そして時々涙が流れるの。
何でかは知らない。
だけど、それはまるで遠い昔に忘れてきたような何かを思い起こさせるようで、呼び寄せるようで
胸が苦しくなる。
きっとわたしは、遠い昔にも生きていた
そう思うのは
血塗れた重たい大人の自分を夜な夜な夢に見たから。
でも、わたしにはそれ以上そのことを知るすべはなかった。
なかったのだ。