第6章 夢遊病
今宵は雪が降るだろう。
先日、父の書斎の机の屑籠に、わたしが売られる店からの手紙が入っていた。
父は何も言わないが、お金の工面が出来なかったようで、わたしは近々そこに売られることになるらしい。
その書類を見た日の夜、父は珍しく家に帰ってきていて月を眺めて酒をあおっていた。
もう、父と最後に言葉を交わしてからどれくらいたっただろう。
わたしの身一つで、父が借金取りに追われることがなくなるのならば、それも致し方ない事なんだと思った。
いつもよりも念入りに掃除を済ませては、父の分の食事も用意する。
食事の時間を1時間過ぎて、食卓にこない父を諦めて父の部屋の前に食事を置き去り、いつものように一人で食す。
父はもう、何を考えているのかわからない。
でも、最後、父に追い出されるまでに親孝行できたのなら、母に育てていただいた恩くらいは返せただろう。
最後の孝行にと掃除や片付けを済ませる。
歳が明けたらここを出なければならないのだから。
今宵はしんと静まって、音が冷たく響く気がする。
戸を閉める音が廊下を反響して、いつもより大きく荒い音に胸が引き避ける音がした。
今宵、大雪が降るだろうとよその使用人が言っていた。
空が暗くなると、ちらちらと雪が降り始める。
いつの間にか、炊事場にはお膳が置かれていて
家には父の気配があっても、どちらからも声をかけることはしなかった。