第4章 その女、現か幻か
「なんだ!!このバケモノが!!止まれ!」
「窓を突き抜けていくぞ!!」
走りついた先には、叫んでいる数人の男の声。店の奥は大騒ぎだった。
しかし、刀が暴れているというわりに、血の海を想像していたというのにそれがない。
数歩遅れて到着した悲鳴嶼は、その状況を血の匂いがしないことで理解すると同時に、自身の武具と同じような陽の匂いを僅かに感じた。
大の男が二人。しかも片方は結構筋肉質な強面の男だ。そんな二人が抑えているのにもかかわらず、家財や窓ガラスを割りそうなほどに暴れる刀。しかし、その鞘は収まったままだった。
まるで、持ち主のところへ帰ろうとするかのように。
悲鳴嶼がそれでも危険だと察知し、彼らの元へと飛び込む。それに続くように千鶴も駆け出した。
男たちは突然現れた二人に驚き、思わず刀から手を離した。
自由になった刀はするりと男たちと悲鳴嶼を掻い潜り、一直線に千鶴の腹へと飛んだ。
刀によって突きとばされ、畳の上に叩き付けられた千鶴は何が起きたのか分からぬまま。刀は、千鶴の上で動きをぴたりと止まった。
「アンタ、大丈夫かい?」
「こりゃぁ...。」
動きを止めた刀は鈍い光を放ってじわじわと真新しい刀へと変わっていく。
同時に彼女の顔の痣の色が赤黒さを増した。
それを見ていた質屋の女は、顔色を青くして鳥肌を立てていた。
「いっ......今すぐ持っていってちょうだい!そんな気味の悪い代物なんか寄越しやがって!」
声を荒らげては、千鶴を無理矢理に引っ張り起こし刀を押し付ける。
その強引さに思考が追いつかないまま、されるがままだ。
乱暴に追い出そうとするその手を悲鳴嶼が鷲掴みにして止めた。
「この者に聞かねばならんことがある。手荒にせずとも私が連れていこう。」
障子襖より遥かに大きな男の威圧に、冷や汗をかきながら質屋の女は手を引っ込めた。
千鶴はそのまま悲鳴嶼に腕を引かれながら、放心状態で刀を胸に抱えてついていく。
「失礼する。」
去っていく二人を止める者はない。
何が起こったのかよく分からないまま、ただ茫然と見守るだけ。
玄関口まできて、質屋の女が何かを握りしめて追いかけ、それを投げつける。
「金はやるから、二度と来るんじゃないよ!!このバケモノ!!」