第4章 その女、現か幻か
女も気付いて来る方向を見ている。
「ねぇ!アンタだろ!ウチにあんな刀を売ったのは!!」
年増な女が鬼のように声を荒らげている。
「どうなさっ....」
「刀が暴れてんだよ!なんか祟りでも付いてんじゃないのかい!箱を打ち破って父ちゃんが必死で取り押さえてんだから来てちょうだい!」
千鶴には相手はわかっている。昼前に家財を売った質屋の店主の女房だ。
"刀が暴れる"
昨夜のその言葉と夕刻出ていったきりの父の言葉を思い出し、胸の奥が爛れるほどにジリジリと焦りが湧いてきた。
この人は絶対連れて行ってはダメ
目の前の盲目の人はきっと.....
思考をめぐらせている間、目の前がゆっくり動いているように感じた。
「場所はどこだ。」
悲鳴嶼が、話に割って入った。雰囲気から感じる千鶴のようなか細い女では危険すぎると思ってのことだ。そして、この一大事にいち早く駆けつけられる自分が行かなければと、人命を助ける生業として当然の反応であろう。
質屋の女から場所を聞き、走り出そうとしたが、千鶴はそれを引き留めた。
「お待ちください。あれは、恐らく私が居なければ収まらないかもしれません。父が言っていたことが本当ならば、壊して済む代物ではないと思います。場所も存じておりますのでついて来てくださいまし。」
そう言うものの、女の足では追いつくまいと思っている悲鳴嶼は頭を抱えた。
「抱えてではないと間に合わん。」
「走る方はいささか人並外れたものがあります。」
そういうや否や、千鶴は走り出した。
その俊敏さ、単なる常人と思っていた悲鳴嶼はかなり驚いたが、その後ろを走ってついていくしかなかった。
その速さは、鬼殺隊最高位”柱”にいた彼でも足手まといだと感じさせない程で、千鶴の正体に疑念を少しばかり抱いたのだった。