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孤独な夜の瞼の裏には...【鬼滅の刃】

第3章 痣の人



暫く、そのままで時が経つ。飽きもせず、この状況も変とも思っていないのか、どちらとも不思議と離れるという選択肢は浮かばないようだった。

ただ、晩秋の風が木々の葉を揺らす音が鳴り、コオロギと鈴虫の鳴く声が聞こえる。

思考を奪われたままただ夜空を見上げるだけ。
こんなに緩やかに鼓動が鳴るのはいつぶりか、もうわからない程だった。

「そういえば、わたし名乗っておりませんでした。申し訳ございません。わたしは「千鶴」
「え?」
「千鶴...であろう?」

何故、わたしを知っていて、いや、父の名前で知っているはずなのだ。そして今やわたしが父の代わりに門下生を指導する身。ここらに住んでいたらそんなことはあり得る話。

「そうですよね。でも、何故わたしのことを?」
「お前がここで笛を吹くのを毎夜聞いていた.....。」
「そうですか.....」

少し考えた。ここで笛を吹くのは3年振りのこと。そして毎夜聞けるところにこのような美しい侍風体の人はいただろうか。
名家ならば父が知らぬわけがないというのに。

「何かしらの組織の方でしたね。深堀しようとしていました。申し訳ございません。」
「よい.....。」

視線がこちらを向いては、大きな手が頬を包みわたしの額にある彼と同じ痣の輪郭を固い指がなぞった。
美しく赤黒い双眼が細められ、温かみのある眼差しはなんて心地よいのだろう。この心を懐柔していく不思議な感覚で、目が離せない。

「落ち着いたのならば、笛の音を......今一度聞かせて欲しい。」

「は.......い......。」

一度懐にしまった笛を取り出しては、また空を見上げ目を閉じた。

視界に染まった赤い鮮血の血だまりの中、暖かくも心地よい感覚...。

何で今、夢のあの感覚が蘇るのだろう。

でも、不思議と穏やかに終わる死の淵に孤独という文字を感じなかった。

あの時の暖かさを想って、隣で支えてくれる大きな見知らぬ人のために、わたしは笛の音を鳴らした。




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