第3章 二話 首が飛ぶ京
月の消えたある日。
真夜中、斎は屋敷を出た。
誰もいない通りを降りて行くと、朱雀門の前に基兼が待っていた。
「灯りも持たず来たのか。
お前はあいも変わらず夜目がが利くな。
真っ暗だぞ?」
新月、月のない真夜中。
灯籠も提灯もなければ、一寸先は闇だ。
「基兼が灯りを持ってくると分かっておったので持ってこなんだ」
ふふふふと揶揄うように笑った。
「あぁ、俺は頼りにされておるのだな」
基兼が快活に笑って見せる。
「勿論だ。
頼りにしているもなにも、全て委ねたいくらいだね」
軽口がかえってきた。
女だったら、誘われているとしか思えないその言葉。
(コイツは悪い冗談が本気になりそうだ…)
あの日から、
独り悩ましい基兼は溜め息を吐いた。
朱雀門を更に南に降りる。
羅城門あたりは貴族の家屋敷とは違う、寂れた様子だ。
平安京は貧富の差が激しい。
外に出れば魑魅魍魎に襲われるという噂を信じてしまいそうになる。
それほど、貧しい様子。
まさか、外がこんなだとは、その事実から誰もが眼を背けてしまっていた。