第2章 物の怪と札師
「⁉︎」
二歩ほど離れていたはずの斎が鼻が触れそうなほど近くにいた。
「お前は俺の物なのに、山犬が傷つけた」
一瞬、
眼を離した隙に、ではなかったのに。
瞬く間だった。
「斎……」
「基兼、悪かったね。
直ぐに治してあげるよ」
やけに艶やかに聴こえた斎の声。
「⁉︎さっ、斎っ…ッッ」
破れた衣の間に見える腕の傷に、斎の舌が触れ、唇が触れた。
「なっ、何をするっ!」
クク…
「私とお前しか居ないのだ。
好きにさせてくれても良かろう?」
眼だけを上げてそう言った斎。
(…)
基兼はその眼、その瞳にグッと詰まった。
悩ましいほど艶艶として妖しい。
魅入られ取り込まれそうな錯覚。
ドッドッドッ…鼓動が速くなり、
熱が上がる。
「基兼……私の前では血を見せないでくれないかな」
「ど……そんな…」
どうして?と聞いてはいけない気がした。
熱が上がった様なのに、冷や汗が流れる気がする。