第2章 物の怪と札師
「分かりました、分かりました。
基兼、行こう。
悪霊退散〜」
「お、おい、斎」
澄まし顔で立ち上がった斎を追って基兼は慌てて立ち上がった。
上司である晴明を悪霊といい、敬意もなく退席する斎を、諫めるでもないのは由々しきことだが、
斎を諌めてもどうにもならない事だからだ。
「斎っ、実継って御人は山犬に憑かれてたってことか」
「そうだね。
元々、霊感が強い札師だったんだよ。
そこに山犬が入り込んだってことさ」
「お前はそれを知ってて逢いにいったのか」
「さぁね、でも……」
ギラッと斎の鋭い眼差しが基兼に向けられる。
(なん……)
ゾクリとするほど冷たい瞳。
(金色?まさか…ね…)
「お前が血を見るとは……」
そう言って開いた口に、人より長い犬歯が覗いて見えた。
(見間違いか?)