第2章 物の怪と札師
「貴方のような方に、俺の札はいらん」
奥の部屋から声がした。
「それはない。
遥々やってきたのですよ?」
「来てくれてなどとは言ってない。
其方が勝手に来たのだ」
伸ばし放題の黒髪に隠れた顔は見えない。
「まあ、それは否定しないね。
けれど、私の子をひとり捕まえているでしよう。返してもらうついでも兼ねてね」
斎は調子良くペラペラと話を続ける。
お供の基兼は黙って見ているだけだった。
が、
「帰れ!」
と屋敷の主人らしき眼の前の男が大声で何かを投げつけた。
「斎!」
シュッ‼︎
瞬時に抜刀し振り切った。
パラ……
「え?」
「あーあー…勿体無い」
「は?」
「基兼、鬼が出る前に切らないでよ」
基兼が呆気に取られているのを他所に、
斎は基兼を非難した。
「鬼が出る?」
「やだね、投げられたのは札だよ」
「…え…いや…俺は、何か危ない物を投げられたと……」
基兼は情け無い程 しどろもどろに言い訳をする。
勿論、言い訳をする必要も非難される筋合いもないのに、だ。