第1章 出会い
先程目にした日向のレシーブは素人同然で試合では使いものにならないだろうとあずさは思った。
レシーブがないとボールは繋げない。
ボールを繋げないと勝つことはできない。
影山の厳しい言葉にも彼が諦めることはい。
「分かった。レシーブ上達してお前にトスを上げさせてやる」
「できるならな。・・・お前も協力しろ、あずさ」
影山に名前を呼ばれてあずさはビクリと肩を跳ねさせた。
協力?なんでわたしが?とあずさは怪訝な顔をした。
「俺がセッターになるためだ」
「それ、わたしにメリットある?」
「幼馴染のよしみだ」
「何で偉そうなの?わたしにメリットないじゃん」
「お前は近くでバレーが見れるだろ」
「・・・そうだね」
中学最後の県大会予選で負けてからあずさはバレーからは遠ざかっていた。
バレーが好き。もっと近くでバレーを感じていたい。
でも、どうしてもあの日からコートに立つことが出来なくなっていた。
二人がレシーブ練習をしているのを見て、楽しそうで羨ましくて吸い寄せられるようにここに来ていた。
もっと近くでバレーを感じたい。と
「分かった。手伝うよ」
覚悟を決めたようにあずさはボールを拾い上げた。
久しぶりのボールの感触に胸が疼き、中学の頃よりも大きくなったボールに切なさが込み上げてきた。
「・・・高校生のボールは大きいね」
「じきに慣れる。・・・日向!あずさが練習に協力してくれるそうだ。気合い入れてけよ」
「まじで!?よっしゃー!辻さんってバレー部なの?」
「”元”バレー部だよ。わたしは厳しいよ、日向くん。」
「日向でいいよ!影山よりマシ!」
両拳を掲げて気合い十分の日向にクスリと笑みがこぼれた。
「日向!足使って」「姿勢くずれてる」「前重心意識して」「いまのすっごい、下手くそ!」
影山からのボールを受ける日向の横でレシーブの構えが崩れるたびに声を張り上げた。
何本も打ち込んでは受けて、影山と日向は息を上げていた。
「日向くん!最初より良くなったよ。返せる本数が増えてきた」
日向の成長速度には目を見張るものがあった。
優れた身体能力、そしてそれとは別の大きな力をあずさは感じ取った。
全身が痺れるようなゾクゾク感。
この二人の成長をもっと見たいと思った。