第1章 出会い
「チビなんだから背伸びしても届かないデショ。そこにあるんだから台使うとか頭使いなよ」
そう言って月島は倉庫端に置かれた台を指した。そもそも身長の高いあずさは背伸びをすることはほぼないので台を使うという発想はなく全く視界にも入っていなかった。
月島に馬鹿にされたことよりもあずさの思考は別のものにいっていた。
「チビ?わたしが?」
「・・・なに?ニヤニヤして気持ち悪い」
同級生の女子たちよりも頭一つ分は高い身長がコンプレックスだったあずさは月島の発言に嬉しくなり、我慢出来ずに笑みがこぼれていた。
いつもからかいの対象だったあずさはずっと小さくて可愛い女の子たちが羨ましかった。
チビ扱いされるのが新鮮で嬉しかったのだ。
「もう一回言って」
「は?気持ち悪い」
「ちがーう!そっちじゃなくて!」
「チビ?」
「うん!」
「なんで嬉しそうなの?気持ち悪いんだけど」
「さっきから一言余計なんだけど!わたし169cmだよ?女子の中じゃ高身長なんだよ?チビなんて生まれて初めて言われた」
「あっそ」
「月島くんは大きいね!」
あずさは微笑んだ。
「・・・そうだね」
少し口角をあげて笑った月島に相変わらず綺麗な横顔だとあずさは目を奪われた。
口は悪いのに垣間見せる彼の優しさや笑顔に胸の高鳴りを止められなかった。
「なにぼーっとしてるの。早く終わらせるよ」
「・・・うん」
あずさの顔は赤く、顔を隠すように月島に背を向けて作業を再開させた。
どちらも声を発さず、黙々とこなしていく。
この時間がもっと続けばいいのにと思いながら。
あの日以来、あずさと月島は距離が縮まっていた。
朝、廊下を歩く月島を見つけるとあずさは駆け寄った。
「おはよう、月島くん」
「おはよ」
「昨日のドラマ見た?」
「見てない」
「えー、見てないのか。凄く面白かったよ」
「良かったね」
「昨日の晩御飯はハンバーグだったよ。月島くんは?」
「生姜焼き」
あずさが一方的に喋ってはいるが月島は答えてくれる。
「ねぇ?うざい?」
邪険にはされていないと分かっていて月島に問うと「別に」と予想通りの答えが返ってきてあずさは笑みを溢した。
一方的に話していても相槌を打ってくれる月島に嬉しくなり教室に着いてからもずっと話しかけていた。